日本乳癌検診学会(以下、本学会)は、検診によって早期の乳がんを発見し、乳がんによる死亡の減少に寄与することを目的としています。 2009年11月、米国予防医学専門委員会(US Preventive Services Task Force, USPSTF)は、それまで「40歳以上の女性に対して、マンモグラフィを用いた乳がん検診の1〜2年に1回の受診を推奨する」としていた推奨(グレードB)を、「40歳代の女性に対しては、マンモグラフィを用いた定期的な乳がん検診を行うことを推奨しない」という推奨(グレードC)を発表しました。(その後、推奨の表現は「50歳未満の定期的なマンモグラフィ検診を行うにあたっては、対象者個人ごとの利益と不利益に関する価値判断を考慮すべき」と修正されていますが、推奨グレードCの判断自体は変わっていません。) 推奨グレードがBからCに変更された理由として、マンモグラフィ検診による利益(乳がん死亡率減少効果)は40歳代の女性に対しても認められるものの、不利益(要精検の結果、がんではなかった人に対する不必要な検査や放置しても臨床的に問題にならないがんに対する治療等)が存在し、利益と不利益を比べた場合に50歳代以上の女性と比較して、40歳代では利益が不利益を上回る度合いが小さいことが挙げられています。 この専門委員会の勧告に対し、米国対がん協会(American Cancer Society, ACS)は、40歳代に対しても引続きマンモグラフィによる乳がん検診を行うとして、専門委員会の勧告に反対する意見を表明しています。 一方、 米国立がん研究所(National Cancer Institute, NCI)は中立的立場をとっています。 その後、この勧告に関して米国議会で公聴会が開催され、セベリウス保健福祉長官は「USPSTFは政府の外部独立委員会であり、今回新たな推奨を示したものの、政府の政策を決定する機関ではなく、米国政府のマンモグラフィ検診を保険でカバーするかどうかの判断を変更しない」と発表しました。 年齢別に乳がん罹患率を比較すると、米国では40歳〜50歳代に比べて60歳以上の女性で高くなるのに対して、日本では40歳〜50歳代の女性の方が60歳以上よりも高いことから、今回の米国専門委員会の勧告(40歳代のマンモグラフィ検診)は日本に対して、より大きな影響を及ぼすものと考えられます。 本件に関する今年3月の米国政府機関等(NCI, CDC)の専門家との意見交換の結果を踏まえて、本学会の見解を以下に示します。 |
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1. |
USPSTFの今回の改訂は、科学的根拠に基づいた概ね適切なものであるが、アメリカのデータに基づいた判断であり、日本にそのまま適用することはできない。 |
2. |
わが国の推奨はわが国のデータに基づいて改訂すべきであるが、不利益に関するわが国独自のデータが不足しており、早急にこれを収集する必要がある。 |
3. |
死亡減少効果についても、@検診を実際に受けた人と受けなかった人の比較ではなく、評価研究において検診群に割りつけられた人と対照群に割りつけられた人の比較なので死亡減少効果を過小評価している点、A観察年数調整をしていないので観察年数の短い40歳代の死亡減少効果を過小評価している可能性がある点について、検討を加える必要がある。 |
4. |
わが国における科学的根拠に基づいた推奨度の改訂を行うまでは、当面現行の推奨を継続することが妥当である。 |
本学会は、乳がん検診に関して、利益のみでなく不利益に関する科学的知見の集積に務め、国民の皆様にとって、よりよい乳がん検診が実施できるよう、これからも努力していきたいと考えています。 |
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米国予防医学専門委員会による乳がん検診推奨に対する 日本乳癌検診学会の見解.pdf(95 KB) |